本学会では、動物介在療法(Animal-assisted therapy, 以下AAT)の定義、実施方法および意義を現段階では以下のように位置づけています。
※ この内容は時代とともに修正あるいは追加される可能性がありますのでご了承ください。
AATは、一般的には伴侶動物(主に犬、馬など)の力を借りて人の精神的あるいは肉体的な健康状態を向上させるために実施される補完医療の一種です。
その最終的な目標は機能回復を通じて対象者の社会性を高めることにあります。また、その過程で人と動物のより良い共生関係が構築されることが期待されています。
AATに用いられる動物種には、世界的には上記の動物のほかにも飼い慣らされた山羊などの家畜やイルカなどの海洋動物が対象になることもあります。(ただし、学会ではIAHIOが推奨する動物を介在動物とする)
AATの実施形態:高齢者養護施設、学校、病院などにセラピードッグやセラピーホースなどを連れていく訪問型と、日常的にAATを実施している施設にセラピーを受けたい人が訪れる通所型とがあります。
AATの実施は、患者を対象とする場合には、医療機関で一定の診断と治療を受けた人に対して医師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、看護師、スポーツトレーナーなどの専門家の助言と協力のもとに実施されることが原則です。
AATの実施員と役割:インストラクターの指示のもと、ハンドラー(犬)あるいはリーダー(馬)と呼ばれる実施員が動物の動きを制御し、動物と人との間のコミュニケーションを最適に保てるように努めます。
また、馬介在療法の場合は、リーダーのほかに馬の左右両側あるいは片側にサイドウォーカーと呼ばれる人が付き添うことが少なくありません。
インストラクター、ハンドラー、リーダーは一般的には一定レベルの教育を受けた有資格者が務めます。
サイドウォーカーは、熟練したボランティアが担うことも多く見られます。
AATの対象者は、遺伝性疾患(例、ダウン症)、脳性麻痺、自閉症、知的発達障害、中途障害、など様々な疾患領域が挙げられます。
明確な疾患でなくても、日常生活の中で疲労やストレスが蓄積されている人、あるいは一般的な高齢者も対象になります。
AATの効果:近年、AATの効果に関する科学的検証研究が国内外で盛んになされるようになり、関連した研究報告が多くみられるようになりました。
たとえば犬によるAATでは、痛み、疲労、ストレス、イライラ、不安、悲しみ、怒りやすさの軽減が生じる一方で、落着き、喜び、快活さが増大することが報告されています。
また、高血圧患者では、ペットとの一定期間の共生によって、ストレス負荷時の昇圧反応や交感神経緊張が緩和されること、慢性心不全患者における循環動態がペットの訪問によって改善されることなどが観察されています。
馬介在療法では乗馬刺激によって、体幹の左右バランスの改善、下肢内転筋の筋力バランスの改善、上肢機能の改善、頭頸部の安定性改善などの効果が報告されています。
最近、このようなAATの効果は、わが国の医療分野でも評価されるようになってきました。
(公益社団法人日本リハビリテーション医学会「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン」第2版)
1990年に、人と動物との相互作用の正しい理解を促進させるために各国で活動している学会、協会等の国際的な連合体として、「米国のデルタ協会」、「フランスのAFRAC」、「イギリスのSCAS」が中心となり、 IAHAIO (International Association of Human-Animal Interaction Organizations) が設立された。
この組織の目的は、全てのIAHAIO加盟国、加盟団体の協力と協調により、世界の「人と動物との相互作用の研究」を「人と動物双方の生活の質と福祉の向上」に活用していくことである。