柿沼美紀
日本獣医生命科学大学 比較発達心理学教室
2020年、Covid-19が地球上の広がり、多くの国はその感染対策としてロックダウンを実施している。ロックダウンは人の生活を大きく変えるだけでなく、共に暮らすコンパニオンアニマルにも大きな影響を与えた。パンデミックのもと、人は自らの身を守るために、また政府の要請により通常よりも長い時間を家で過ごすことになった。人々はこれまでに経験したことがない窮屈で、不安や不便さを経験する生活を強いられた。本研究ではパンデミックの経験がコンパニオンアニマルとの関係に及ぼす影響を調査した研究を分析し、基本的な人と動物の関係について検討する。
グーグルスカラー(研究論文検索エンジン)を用いて、Covid-19, dog, cat, ownerの単語で文献を検索した。題名に犬、猫、ペットとあるもの、また犬猫の感染に関するものを除いた27本の論文の主な内容についてまとめた。
調査対象となっている国はイギリス、イタリア、米国、スペイン、ニュージーランド、イスラエル、インド、セルビア、メキシコ、パキスタンなどであった。
テーマとしては、ロックダウン期間中のペットの存在とメンタルヘルスの関係についての報告が多かった。ペットの飼い主の方が精神的な負担が少なかった、飼い主はペットがいたから大変な時期を乗り越えられたといった、ペットのプラスの効果が報告されている。一方で、ペットの問題行動が増えた、さらに、ロックダウン中に子どもの咬傷事故が増えたという報告複数の国であった。ペットにとっても環境が変わり、影響を受けていることが示唆された。飼い主の不安としては、自身が感染した場合の対応、ロックダウンに伴う餌不足、病院受診の制限などが挙げられていた。
人の行動の変化としては、ロックダウン中に新たに犬や猫を迎えた家族が増えている。世界の多くの国で保護犬、猫の譲渡が増えたと報告されている。ロックダウン後の飼育放棄の懸念も報告されている。
傾向の異なる報告としては、セルビアでは、コロナ禍、新たに犬や猫を飼う人が減っている。インドでは野犬が餌不足で弱ったが、同時に近隣の人が餌やりをするようになっている。メキシコでは、ロックダウン中のトラブルの原因として、騒音、ゴミ、噂話、子どもと並んでペット(吠え声、攻撃的な行動、糞尿)が挙げられている。インドで動物病院対象に行われた調査では、ワクチン不足や餌不足、診療件数の減少が報告されている。
私たちはCOVID-19という世界共通の危機に直面している。外出の制限があり、不安も高くなった時、多くの人はペットとの絆を深めることを求めたようである。一方、地域によって犬や猫の置かれた状況は多少異なっていた。このような地域差にも今後は注目して人と動物の関係を考える必要があるだろう。