特定非営利活動法人

動物介在教育・療法学会

Asian Society for Animal-assisted Education and Therapy

ASAET

ユマニチュード:触れ合いがもたらす多感覚コミュニケーションケア

吉川左紀子 京都芸術大学


「見る、話す、触れる」を組み合わせたケア技術、ユマニチュードの専門家がケアをする。そのケアによって、それまで人との関わりを拒絶し、生きる気力を失っているように見えた認知症の人に大きな変化が生まれ、穏やかな人間らしいたたずまいを回復してゆく。実際にその様子を見ると、「まるで魔法のよう」と思ってしまうほど、劇的な変化である。しかしこのケアは誰でも身につけることのできる技術であり、看護師や介護職員の間に少しずつ広まってきている。

私は「人と人が心を通わせる技術」には強い関心があり、数回にわたって東京医療センターでユマニチュードケアの研修に参加した。ワークショップで、ケアする人、ケアされる人の役になり、改めて実感したのは、ユマニチュードでは、見る、話す、触れる、のそれぞれについて、非常に多くの技法が大変細やかに組み立てられているということだった。

ユマニチュードケアは誰もが身につけることができるが、「すぐに、簡単に」できるわけではない。たとえば、相手と目を合わせることで見る側の優しい気持ちが伝わるかどうかは、相手への近づき方や声のかけ方、声のトーン、タイミング、顔の表情など、さまざまな要素の組み合わせによって決まる。視線、表情、声、仕草のすべてが、安心や信頼を伝えるメッセージとして機能することがもっとも重要なポイントである。それによって、ケア自体が心地よいコミュニケーションの時間として経験され、「自ら立ちあがって歩く」という、生きる意欲の快復に繋がるのである。

現在、脳科学や情報学の専門家とともに、先端の研究手法や技術を組み合わせて、ユマニチュードケアがなぜ人の心を動かすのか、エキスパートの技術の神髄に迫ることができればと基礎研究を行っている(下の写真)。本講演では、そうした事例にも触れながら、人間にとっての多感覚コミュニケーションの必要性と意義について、考えてみたい。